002クラスによる違い




「わわわ!?」
 人は何でゲームをしていると口から言葉を叫んでしまうんだろう。
 私はリアルの自分の部屋で意味不明な叫びを上げながら、ゲームの中で飛んでくる岩を避けた。
 私、つまりリコリスとウィッキちゃんがジギーさんと知り合いになった次の日。ジギーさんから基本的なことを教えてもらった私達は一番最初の冒険エリア、『惑星ナベリウス』でレベルを上げていた。
 ちなみに、昨日ウィッキちゃんとなかなか会えなかったのは『ブロック』が違うからということだったらしい。
 PSO2ではプレイヤーが一つの場所に集まりすぎてパソコンやゲーム機が正常に動かなくなるのを防ぐために、同じ見た目でも実際は違うエリアというのをブロックという区切りで作ってあるんだそうだ。
 で、私とウィッキちゃんはみごとに違うブロックにいたから会えなかったらしい。
 と、そんなこと言ってるうちにまた岩が飛んできた。
 私は慌てて避ける。岩が飛んでくる方向から横に向かって『ミラージュエスケープ』。テクニックを使うクラスの基本回避動作で、無敵になりながら短い距離を移動できる。ボタン一発で使えるのがありがたい。
 岩を飛ばしてきた敵を見やる。ナベリウスの代表的な敵、PSO2では敵のことをエネミーっていうらしいけど、そのエネミーの『ザウーダン』がいる。
 紫色の人並に大きな猿で、自分と同じくらいの大きさの岩を投げて攻撃してくる。基本的に普通の雑魚エネミーは群れを成して襲ってくるので、飛び道具を使われるだけでも厄介だ。
 私は岩を投げ終わったザウーダンに向かって『テクニック』、このゲームの中の魔法のようなもので反撃をしようと試みる。
 そのとき。
「ぎゃー!(HP30%)」
 ばしーん! とかいう派手な音とともに、ぎざぎざの噴出しで強調された独特な台詞が画面に出てきた!
 いけない! ウィッキちゃんのヘルプメッセージだ!
 ジギーさんに教えてもらった知識で、『オートワード』といって一定条件の時に自動で台詞が出るようにすることができるのがPSO2の特徴だった。
 つまり、この特長を生かしてHP、体力が減ったことを伝えるワードが自動で出るようにしていたのだ。
 ウィッキちゃんを助けなきゃ!
 右上のマップでウィッキちゃんの位置を確認する。わ、だいぶ後ろだ。エネミーに夢中になってウィッキちゃんを置いてきちゃってたんだ。
 慌ててウィッキちゃんのところに戻る私。走り寄ると、ウィッキちゃんは三体のエネミーに囲まれて逃げ回っていた。
 ウーダンという茶色の猿、ザウーダンよりも弱い猿だ。ザウーダンが一匹だけしか出ないと思ったら、残りは全部ウィッキちゃんのところにいたのね。ごめん、ウィッキちゃん。
 私はウィッキちゃんの隣に駆け込んだ。PSO2ではエネミーは自分を攻撃している人を狙って動くようにできているらしく、これを『ヘイト』というのだそうだ。
 私はこのウーダンを攻撃していないので、ウーダンは私を狙ってこない。回復するなら今のうちだ。
 ウィッキちゃんの横で、回復テクニック『レスタ』のチャージを始める。
 テクニックはチャージして使うか、チャージなしで使うかを選べて、チャージ時間はだいたい一秒のものが多い。
 チャージなしですぐに回復したいけど、チャージしないテクニックは基本的に弱い。レスタもチャージしなければ極少量しか回復しない上に、回復範囲はほぼ自分だけだ。
 チャージ時間が長く感じる。たかだか一秒程度なのに。
 よし、チャージ完了した!
 そう思って発動しようとした時、ウーダンの攻撃を避け続けていたウィッキちゃんはミラージュエスケープで遠くへ逃げてしまった。レスタの届かない距離だ。
 ああ、せっかくチャージしたのに……。
 とはいえ、一秒チャージしている間をエネミーが待ってくれるわけでもないのはまあ、しょうがないよね。逃げたウィッキちゃんはどんどん遠くへ行っちゃう。
 チャージ中も歩けるんだけど、ゆっくりとしか歩けないから走って逃げていくウィッキちゃんはどんどん遠くへ。
 しかたなく、その場でレスタを発動し、私はチャットを打ち込んだ。

 ウィッキちゃん、こっちへ逃げて

 こっちへ、くらいまで打ち込んだとき、後ろから岩が飛んできて思いっきり私にぶつかった。画面が赤く染まる。
 うわ、さっき相手にしてたザウーダンだ! 追いかけてきたのね!
 私のHPが低下したために赤くなった画面に私が設定していたオートワードが飛び出す。
「わ、わわわ!(HP30%)」
 うん! 自分のHPが減ってるのは知ってるから!
 とりあえず攻撃を受けないように逃げる。逃げて回復するチャンスを作らなきゃ。
 と、前方からウィッキちゃんがウーダン三体を連れて走ってきた。
 ああ、私のオートワードを見て慌てて戻ってきたんだろうなあ。
 そのあとどうなったか。それはもう、四体に増えたエネミーを前にHPが低下した私達があわあわしながらどうにか撃退したのである……。


 ●


 結局、レスタの回復は諦めて、二人して炎の基本テクニックの『フォイエ』でばしばし炎を打ち込んでエネミーを倒した。
 ちょっと精神的に疲れたのでエネミーがいなくなって安全になったその場所に、二人してぺたんと座り込む。
 ナベリウスはエネミーが出なければ自然豊かな開けた森という感じだ。
 のどかだなあ。
 BGMもなんとなく落ち着く。
「ふう」
 ウィッキちゃんが呟く。
「いやー、大変だったねw」
 はい、とても大変でしたとも。
「回復が上手くできればいいと思うんだけど、結構難しくて」
 私はぼやく。もともと私は回復とかを使ってウィッキちゃんと遊びたくてこのキャラを作ったんだけど、どうも上手くいかない。
「レスタって意外と範囲狭いよねー」
 ウィッキちゃんの返しに同意する。
 仲間内で連携を決めておくのも手なんだろうけど、もっと相手を煩わせないように回復ができないとつらいと思うんだよね。
「どうすればいいのかな?」
 ウィッキちゃんに聞いてみる。
「うーん・・・」
 ウィッキちゃんは考え込むチャットを打ち込んだけど。
「わかんないや」
 すぐに諦めた。だと思ったわ……。
「よし、ジギー先生に聞いてみよう!」
 すぐに人に頼るあたりウィッキちゃんらしくもあるけど、私もこれは賛成だ。
「じゃあ、一旦帰ろうか」
 私達はナベリウスから船団オラクルへと帰還した。


 ●


 PSO2には『フレンドリスト』という機能がある。
 友達、フレンドになった人を登録しておいて、一覧で確認できる機能だ。そのほかにも、この一覧から各種オプション機能へ繋がっていたりと利便性が高い。指定したフレンドがログインしたことを知らせてくれる『ログインコール』なんて機能もある。
 なので、ジギーさんがゲームにログインしているのはすぐに確認できた。
「ちょっと呼んでみるね」
 ロビーに戻ったウィッキちゃんは、さっそくジギーさんに呼びかける。
 ウィッキちゃんの頭上にチャット入力中のアイコンが浮かぶ。パーティを組んでいる間だけ、仲間がチャットを入力していることが分かるアイコンだ。これのおかげで相手が返事を用意しているかが一目でわかって、割りと親切。
 でも暫くしてもウィッキちゃんのチャット内容は私には見えてこない。遠くにいるジギーさんに『ウィスパーチャット』を飛ばしているんだろう。普通の チャットは遠すぎると見えないけど、特定の誰かに向けたウィスパーチャットや仲間内だけの『パーティチャット』なんかは遠くにいても見えるのだ。
「ジギー先生くるってー」
 ウィッキちゃんが言う。
「先生って言うの、なんだか恥ずかしくない?」
 私はちょっと思ってることを聞いてみた。学校以外で誰かを先生って呼ぶのが、なんだか恥ずかしかったのだ。
「ゲームの中でも先生は先生じゃん。ジギーさんは先生認定しちゃったから先生でいいんだよ!」
 ウィッキちゃんはつまり、学外の師弟関係というものに面白さを見出しているのかな。まあ、それはそれでいいんだけど。私が先生って呼ぶわけじゃないし。
 暫く待つと、十分くらいしてジギーさんが来た。
「やあやあやあ、こんにちはーw」
 片手を挙げて挨拶するジギーさん。キャラの見た目に反してわりとノリが明るいというか、軽いというか。まあ、キャラはキャラで、中の人は中の人だもんね。
「ドーモ、ジギー=サン」
 ウィッキちゃんが変な挨拶をする。確か今人気の小説だかなんだかの挨拶の仕方だっけ?
「ドーモ、ウィッキ=サン」
 ジギーさんも同じ挨拶を返す。割りと知ってるネタが広いのはジギーさんの特徴かもしれない。
「こんにちは。二人して変な挨拶しないでくださいよw」
 そんなことを言いつつも、語尾にwをつけてしまう私。このゲームをやってみてわかったけど、wって使いやすい。なんだかもともとは好意的な意味ではないものだったみたいだとか聞いたけど、気軽に今は使われてるみたいで、私も使いやすいなあと思うわけだ。
「いあいあいあ、タイムアタック中だったので時間がかかって申し訳ない」
 『タイムアタック』、そういえばそんなクエストがあったような。というか、タイムアタックしながらウィッキちゃんとチャットしてたのかな? ゲーム中のチャットもベテランのプレイヤースキルなんだろうか……。
「さて、レスタが上手く使えないって話しだっけ?」
 ジギーさんが早速本題に入った。ノリが軽いし、すぐにノッてくるわりに会話がサッパリしてる人だ。敬語も最初のうちだけで、話してるうちにすぐに砕けてしまった。
「そうそう。もっと上手い方法ないかなーと思って!」
 ウィッキちゃんもすでに砕けている。私はそこまでできないなあ。
「レスタをかけようと思っても、仲間が動いてるのでやりづらくて。何か方法はないかなと思ったんです」
 私は少し詳しく伝えた。
「なるほど」
 そう言うと、ジギーさんは少しだけ無言になった。
「ふむ」
 やがてそう呟く。
「じゃあ、ちょっとキャンプシップに行ってみようか。実際にやって見せた方が分かりやすいと思うから」
 そんなわけで、私たちはパーティを組んでキャンプシップに移動することになった。


 ●


 『キャンプシップ』っていうのは、PSO2で拠点となる船団オラクルから各惑星へ飛び立つ時に使われる移動用の小型宇宙船だ。
 この宇宙船で『テレパイプ』というテレポートゲートのようなものをくぐることで、他の惑星へすぐに飛んでいける。飛んでいった後はその惑星での活動拠点 として、キャンプシップ内部でアイテムを補充したりもできるすぐれものだ。プレイヤーは簡単にシップと呼ぶことが多いらしい。
 キャンプシップの中はちょっとした広さの空間があって、そこでいろいろとアクションを試すこともできる。ジギーさんはここで実際に試してみようということだった。
「じゃあ、リリさん。そこに立っててね」
 そう言うと、ジギーさんは私から離れていく。そこそこ離れたところで立ち止まった。
「リリさん、レスタを使ってみて」
「はい」
 言われた通りに私はレスタをチャージする。でもこの距離はジギーさんまでレスタが届かない距離だ。それはもう、ウィッキちゃんで何度となく確認しているわけで。
「えい!」
 テクニックの発動に指定していたオートワードと共に、緑色の光の波が広がる。でもそれはジギーさんまでは届かず、私のHPを四回だけ回復して消えていった。
「じゃあ、今度は私が使ってみようか」
 ジギーさんがレスタをチャージした。発動する。
 わわ、緑色の光が、私まで届いた!?
 しかも私のレスタがゆっくり四回の回復をしたのに対して、ジギーさんのレスタは素早く五回も回復した!
「おー! すごい!」
 横で見ていたウィッキちゃんが素直に声を上げる。
「どうやったんですか!? 今の!」
 私は答えが知りたくてしょうがなかった。
「違いは二つあるんだよ」
 普通のチャットだけど、なんとなくジギーさんがニヤニヤとした顔をしている気がする。
「一つはね、クラスの違いさ」
「クラス?」
 『クラス』とは、PSO2の職業のようなものだ。普通のRPGでいう『戦士』みたいな、そういうやつ。
 私のクラスは『フォース』だ。PSO2でキャラクターを作った時に、「テクニックの使用が得意」みたいに書いてあったからこれにしたんだけど。
 ちなみにウィッキちゃんもフォースだ。同じくテクニックが得意って理由で選んだけど、ウィッキちゃんは攻撃をしたいという理由だった。
「そう。リリさんはフォースだけど、私はテクターなんだよ」
 『テクター』!? そんなクラスあったっけ?
「テクターって何?」
「キャラクターを作った時はそんなクラスなかったですよね?」
 ウィッキちゃんの疑問に、私もかぶせる。キャラクターを作った時は確かにテクターなんてクラスはなかったはずだ。
「うむ。実はPSO2ではキャラクターメイキングで選べる五種類のクラスのほかに、三つのクラスが存在するんだ」
「な、なんだってー!?」
 あ、ウィッキちゃんが私の心を代弁してくれた。
「メイキングの時点で選べないだけで、クラスカウンターにアクセスするといつでもそれらにクラス変更をすることができるんだよ」
「うわー、知らなかったです・・・」
 これは本当に愕然とする。どうしようか迷ってクラス決めたのに、他にもあって自由に変えられるなんて……。
「つまり、テクターというクラスだからレスタの効果範囲が広がっていた、ということだね」
 ジギーさんが答えを言う。そっかー、そういうことなのかー。
「もう一つの答えなんだけど」
 ジギーさんの言葉に思い出す。そういえば理由は二つあるって言ってたっけ。
「回復回数自体が多かった理由はテクニックカスタマイズっていうシステムのおかげなんだけど、これはちょっと面倒臭いし初心者向きじゃないからまた今度にしようか」
 『テクニックカスタマイズ』かー。言葉からするとテクニックの性能をカスタマイズできるってことかな? 面倒というのがどういうことかわからないけど、とりあえずジギーさんが今度というならその方がよさそう。
 何よりクラスが他にある時点で考えることいっぱいだし!
「要するに、フォースじゃ駄目ってことかー」
 ウィッキちゃんがぼやく。
「駄目とはいわないけど、クラスの向き不向きでいえば不向きだね」
 そっかー、レスタに向いてるクラスがあったのか。
「そうだな、ちょっとクラスについて教えておこうか。多いから、テクニックに関するクラスだけ」
 言うと、ジギーさんはシップの中で胡座をかいた。私とウィッキちゃんもなんとなくその場に座る。
「テクニックに関係しているクラス。具体的にはそのクラスを選択するだけでテクニックが使えるクラスというのは三つあるんだ」
 ジギーさんの解説が始まる。
「フォース、テクター、バウンサーの三つだね」
 『バウンサー』、確かメイキングのときにも選べた気がする。なんだか武器攻撃がどうこうって書いてあったような気がして見送ったんだっけ。
「フォースは今、君達が選んでるクラスだね。このクラスはテクニックによる攻撃を主な目的としたクラスなんだ」
 テクニックが得意って、攻撃の意味だったのね。
「回復とかも使えるんだけど、その性能を伸ばすスキルは持ってないんだ。かわりに攻撃力を上昇させるスキルがいっぱい覚えられる」
 『スキル』っていうのはレベルを上げると自分で選んで習得できるもので、スキルを習得するとスキルの性能どおりにキャラの性能が変わる。あるいは新たなアクションを覚える。
 フォースは攻撃専門のクラスだったんだ。
「ついでに言うとフォースは全体的に攻撃テクニックを強化できるけど、特に炎、氷、雷に特化するスキルも持っている」
 そういえば『フレイムマスタリー』なんて名前のスキルがあったな。確か炎のテクニックに限って威力アップだっけ。スキル取得画面で見たことがある。
「で、テクターはそれに対して、回復や支援が得意なテクニッククラスだね」
 やっぱりテクターは支援向けのクラスなのかー。
「回復テクニックのレスタや、攻撃力を上げるシフタなどの性能強化を可能にするスキルの取得ができる」
 『シフタ』か。まだ手に入れてないけど覚えておこう。たぶん防御を上げるテクニックもあるのかな。
「また、攻撃テクニックを上げるスキルが風、光、闇の特化スキルだけ存在し、攻撃テクニックもそこそこ使いこなす」
 攻撃面もないわけじゃないんだ。
「そして、攻撃テクニックが弱めなかわりに、近接打撃能力を上げるスキルもあるんだ。専門のクラスほどじゃないけどね」
 近接攻撃もできるの? 多芸なのねえ。
「支援以外がそれぞれ弱めなかわりにいろいろできる、対応力の高いクラスだね」
 なるほどー。やはり私はテクターにするべきなんだろうか。
「先生ー。バウンサーは?」
「はいはい」
 ウィッキちゃんの声にジギーさんが応える。
「バウンサーはテクニックが使えるけど、基本的には武器による接近戦を主眼にしたクラスだね」
 テクニックも使えて近接メインなのか。あ、テクターも近接戦闘はできるんだっけ。ただ、主眼じゃないんだなあ。
「テクニックが使えるクラスとしては唯一フォトンアーツを使うことができるのが特徴」
 『フォトンアーツ』。武器による接近戦におけるテクニック、みたいなものかな。確か。分かりやすくいうと必殺技だろうか。
「テクニックによる攻撃よりはフォトンアーツを主軸にした武器攻撃がメインだね。そこに独自の補助スキルなどを組み合わせた支援的なテクニックの使い方をするクラスだ。もちろん攻撃テクニックも使えるよ」
 ふむふむ。クラスが分かれてるだけあって三者三様なのね。
「攻撃テクニックのフォース、支援テクニックのテクター、武器戦闘の組み合わせのバウンサーかー」
 チャットに打ち込みながら自分なりに反芻する。
「テクニックを使うクラスだけでも種類があったんだね」
 ウィッキちゃんが感想を漏らす。最初に選んだクラスだけだと思ってたから新鮮だ。
「一応ロビーにいるNPCに話しかけていろいろ試していればわかることではあるんだけどね」
 ジギーさんが言う。『NPC』はノンプレイヤーキャラクターの略で、つまりプレイヤー以外のその他の人々だ。そういえばウィッキちゃんに連れまわされて、あまりNPCに話聞いてなかったなあ。ゲームのシステムなんだから、説明がないわけはないんだ、考えてみれば。
「ちょっといろいろ話しかけたりしてみます」
 つまりウィッキちゃんに連れまわされてるだけじゃ駄目ってことなんだけど。
「がんばれリリちゃん!」
 軽く檄を飛ばすウィッキちゃんはわかってるんだろうか。ふう。
「まあ、クラスの細かい説明なんかは自分で探るしかないところもあるから、説明できて丁度良かったんじゃないかな」
 私の気持ちを知ってか知らずか、ジギーさんは付け足した。
「ま、アタシはフォースのままでいいかな!」
 そりゃウィッキちゃんは攻撃したいわけだからそれでいいと思うけど。
「私はいろいろやってみようかな」
 説明を聞いた以上試してみたい。多分テクターになると思うけど、試さないことには分からないことは多いと思う。バウンサーだって補助スキルがあるっていうし。
「基本はいろいろやってみることだね。NPCに話しかけるにしても、自分で試すにしても。やらないとわからないことの方が多いからね」
 ジギーさんも薦めてくれるし、いろいろやってみよう!
「がんばります!」
「がんばれ!」
 ウィッキちゃんはお気楽でいいなあ。まあ、ゲームなんだしそのくらいがいいのかもだけど。


 ●


 数日後。
「仲間から離れないで、仲間とエネミーを両方見ながら攻撃か支援か判断するといいよー」
 実際に戦闘しながら私とウィッキちゃんはジギーさんの指導を受けていた。というか、ほとんど指導を受けているのは私だ。
 あれからいろいろ試して、やっぱりテクターに落ち着いた。支援専用のテクニックを強力に使うという意味ではやはりテクターが一番強かった。これからどう成長させるかはまだ決めてないけど、テクターで模索して行こうと思う。
「テクニックで攻撃もできるから、前に出すぎる必要はないからねー。周りを良く見るのがポイントだよー」
 なんだか間延びしたチャットでジギーさんが戦う私達、というか私にアドバイスを投げてくる。離れたところから見てるだけだから、声を投げかけてる演出なんだろうか?
 とにかく私は必死だ。戦闘に夢中で返事なんてしてられない。
 あ! ウィッキちゃんがザウーダンにテクニックを撃とうとしてる!
 ザウーダンが岩を投げる時は、攻撃を受けてもひるまないから下手に攻撃したらそのまま反撃を食らうって教えてもらったでしょー!
 そんな心の叫びを無視して炎を撃ち込んだウィッキちゃんはザウーダンの岩にもろに頭からぶつかった。
「ぎゃー!(HP30%)」
 ばしーんというオートワードの音がする。わかってる、わかってるよそれ!
 とにかくウィッキちゃんのそばから離れなかったおかげですぐにレスタが間に合った。レスタの範囲が広くなったことも含めて楽にウィッキちゃんのHPが回復できた。
 こうやって周りを見て戦うのね。実感するわ……。
「わーい^^ 回復ありがとう!」
 ウィッキちゃんの回復してもらったお礼のオートワードが出た。回復が成功して、ちょっと嬉しい。
 そのあとザウーダンは私が『短杖(ウォンド)』で叩いて怯んだところにウィッキちゃんのフォイエが当たって倒した。
「うんうん、そんな感じー」
 ジギーさんのオーケーが出る。
「やったー!」
「ねー!」
 私とウィッキちゃんは喜びあった。なんだか、やろうと思っていたことができると気持ちがいいなあ。達成感? そんな感じ。
「よし、じゃあもっとレベルを上げちゃおう!」
 ウィッキちゃんが走り出す。
「あ、ちょっと!」
 慌てて私も走り出した。ジギーさんが後ろから距離をとって追ってくる。
 うーん、ウィッキちゃんといると支援の練習には困らないかも。もちろんこれは口には出さない。
 とにかく、こうして私のレベルアップは本格的に始まったのである。


to be continue...


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