005初! 防衛戦!
「アタシの力よ! ゾンデ!」
ウィッキちゃんがオートワードと共に《長杖(ロッド)》を構えて雷撃を放つ。
空中から地上に落ちた雷撃は、ダーク・ラグネの右前足に確かなダメージを与えた。
同時に、ラグネが大きくジャンプ。ウィッキちゃんを押しつぶしに来る。ウィッキちゃんはミラージュエスケープで逃げるけど、ラグネは黒い雷と赤いいくつもの衝撃波を飛ばして追撃する。
「怖がらずに前に出て。ラグネは離れた方が攻撃が厄介だよー」
ジギーさんの指摘に、私達はラグネに向かって前に出る。
ウィッキちゃんが立て続けにゾンデを連打した。《チャージPPリバイバル》、《ボルトテックPPセイブ》、《PPリストレイト》、これらの《フォトンポイント(通称PP)》消費を節約するスキルを網羅したウィッキちゃんは苛烈なまでに雷テクニックを連打できる。
私は攻撃し続けるウィッキちゃんに攻撃力を上げるテクニックの《シフタ》、防御力を上げる《デバンド》をかける。《シフタストライク》と《デバンドタフネス》、《デバンドカット》のスキルにより強化されたシフタとデバンドは私達二人を強力に強化する。
ウィッキちゃんのゾンデが、ラグネの右前足を砕いた。ラグネは四本の足をそれぞれ二回、壊すことができる。私は素早くラグネの右前足に取り付いた。
「これで!」
オートワードと共に《ラ・グランツ》を打ち込む。巨大な光の槍がラグネの足に突き刺さる。ラ・グランツは五回のダメージ判定を持つ攻撃テクニックだ。だけど私は攻撃判定が終わりきる前に《短杖(ウォンド)》で連撃を加える。
ラグネの右前足が爆発した。ウォンドの打撃と共にフォトンの力を送り込んで爆破させるテクター特有の近接攻撃、《法撃爆発》だ。押し込まれたラグネの前足は、たまらず二回目の破壊を向かえた。ラグネがダウンする。
「もらった!」
ウィッキちゃんがラグネに駆け寄る。テクニックをチャージしながら大きくジャンプ。ラグネの背中、ダーカーの弱点であるコアが見える位置へ躍り出る。
「喰らえ! ナ・ゾンデ!」
ウィッキちゃんを中心に、雷の並が幾重にも広がって球体を作り出す。雷テクニックの中でも攻撃力の高い技だ。強力なダメージが、コアに当たることでさらに強力になり、何度も何度もラグネに大きなダメージを与えていく。
「ガアアアアア!」
ラグネが一瞬立ち上がる。しかし、その咆哮は断末魔だった。
●
私とウィッキちゃんは、既に30レベルを少し超えていた。
まだまだレベルが上がりやすい帯域でもあるみたいだけど、どちらかと言えば私達はじっくりとレベルを上げてきた。
実はこれが、ジギーさんの教育方針によるところでもある。
ジギーさんが言うには――、
「レベルが低い時にしかできない経験や出会いもある。そういうものを大切にした人ほど強くなれる。自分のペースでレベルを上げるといい」
とのことだった。
私とウィッキちゃんは話し合った結果、ゆっくりでいいからちゃんとレベルを上げていこう、となったのである。
だから、PSO2のキャンペーンなどで簡単にいくつも手に入る経験値ブーストアイテムとかは使わないことにした。
こういうアイテムは運営会社の方から、初心者が早く上級者に追いつけるようにという配慮もあって配られるらしいんだけど、私達はあえて使わないようにしようと決めたのだ。
とは言え、そんな私達も30レベルを超えるとだいぶ強さも変わってきた。
30レベルとは言え、様々なスキルを手に入れることができる。そしてそれらを手に入れるということは、それだけ強くなるということだ。
使いこなせているかはまだ分からないけれど、キャラクターの実力自体はちゃんと上がっているわけなのだ。
他にも《サブクラス》というシステム、《クラフト》というシステム、それらもちゃんと教えてもらって、強化してきた。
簡単に言うと、サブクラスとは今選んでいるクラスのほかにもう一つを選ぶことで、二つのクラスの特性を併せ持つことができるシステム。そしてクラフトとは、武器を自分専用にカスタマイズして強化するシステムだ。
私もウィッキちゃんも自分が使う武器を、それぞれ低レベルだけど、クラフトした。そしてサブクラスも選定してちょっと育てた。だから、強くなっていないわけがないのである。
ここでちょっと、私とウィッキちゃんのキャラを簡単だけどデータ的に紹介してみようか。
ジギーさんも、定期的に自分の頭の中でデータなどをおさらいすることは、データの把握や新たな使い道の発想へ繋がるって言ってたし。
私とウィッキちゃんの現在は、以下の通りである。
・ウィッキちゃん:クラスはメインがフォースでレベル34、サブがテクターでレベル18。攻撃力の高い《長杖(ロッド)》を装備して、攻撃重視のスキル
を習得してる。フォースで攻撃スキル、テクターでPP回復スキルを主に取得。特に雷のテクニックに特化していて、風のテクニック強化も睨んでいる。
・私、リコリス:クラスはメインがテクターでレベル32、サブがブレイバーでレベル18。テクニックと打撃の両方をこなすウォンドを装備して、支援スキ
ルを主に習得。テクターで支援スキルを、ブレイバーで全体的な攻撃力アップを習得。攻撃もサブクラスで考えることで、全体的な対応能力を上げての支援を目
指している。
こうして見てみると、サブクラスってメインクラスに比べてもともとのクラスの持つ能力の意味が変わってくるんだなあと良く分かる。
だって、私がメインにしているテクターは、私が支援スキル目的なのに対して、サブクラスに選んだウィッキちゃんはPP回復目的だもんね。なかなか奥が深い。
とにかく、そんなこんなで私達は少しずつ、だけど確実に強くなっているのである。
●
「よーし二人とも、緊急クエストに行ってらっしゃい」
ジギーさんが言った瞬間、ロビーの天井は赤い警告ランプにまみれ、緊急防衛任務を告げるアナウンスが鳴り響いた。
「へ?」
「は?」
私とウィッキちゃんは二人同時にそれぞれ反応を返す。唐突過ぎて何がなにやら……。
「二人とも、緊急クエスト行ったことないでしょ?」
あ、はい。行ったことないです。
心の中で思っても伝わらないので、チャットにしたためる。
「ないです」
緊急クエストとは。一定時間ごとにランダムで発生する緊急イベントである。
参加は自由なんだけれど、普段のクエストよりも難易度が高いクエストな上に、見知らぬ人と十二人の《マルチパーティ》を組んで立ち向かわなければならない。
マルチパーティというのは、このゲームの最大四人までという制限のあるパーティが、いくつか寄せ集まってランダムに十二人が共闘するというものだ。
十二人自分達でそろえれば、その十二人でこなすこともできるけど、私達はそんなにいっぱいフレンドがいないので見知らぬ誰かと共闘することになる。
難易度が高いし、知らない人との共闘になるから、十分強くなるまではやめておこうかとウィッキちゃんと話していたのだ。
「そろそろマルチパーティを経験してもいいレベルのはずだと思ってね。じゃ、行ってらっしゃい」
「ちょ、ちょっと待ってよ先生!」
ウィッキちゃんが流石に慌てる。そりゃあ慌てるよね。いきなり知らない人の中に入ってもまれて来いってことだもの。
「はい、ウィッキちゃん」
ジギーさんがウィッキちゃんを指差す。どうやら先生ごっこに付き合っているらしい。
「いきなり言われても防衛任務はやったことがないのでよく分かりません!」
そうなのだ。今回配信された緊急クエストは、アナウンスの内容からして防衛任務。『採掘基地防衛戦・襲来』というタイトルの任務のようだ。
この防衛戦というのはどうも、緊急クエストの中でも特別なものらしい。
というわけで、ちょっとは解説が欲しいなあと思うわけである。
「まあ、では概要だけ説明しようか」
ジギーさんの説明によると、以下のようなことらしい。
・『採掘基地防衛戦・襲来』とは、砂漠の惑星リリーパに建設された採掘基地を、襲い来るダーカーから防衛するというクエストで、三つの防衛拠点を時間いっぱい守りぬけという内容である。
・このクエストでは専用の《防衛兵器》を使うことができ、拠点に直に設置するバリア、フィールドのところどころにある設置施設に置くことができる銃座などがある。
・防衛兵器はフィールドに落ちている結晶を集めてポイントを溜めることで順次使えるようになっていく。
・ダーカーは《WAVE》と呼ばれる時間の区切りで襲ってくる。
「と、こんなところだね」
そう言うとジギーさんは付け足すように語る。
「実際にやってみないと結局分からないと思うので、これ以上は自分達でやって直に確かめてくるように。二人が行くレベルの難易度で成功報酬のアイテムとかを狙う人はほとんどいないと思うから、失敗してもいいと思うくらいで行ってきなされ」
そしてジギーさんはロビーに座り込んだ。
「じゃ、行ってらっしゃい」
「あれ、ちょっと待ってください」
私は待ったをかけた。
「ジギーさんは一緒にきてくれないんですか?」
今までは、だいたい新たな挑戦とか、大きな何かに対してはジギーさんがついてきてくれていた。手は出さないけど、後ろからアドバイスをくれていたのだ。
「十二人マルチパーティのクエストだからね」
ジギーさんの言葉に、ウィッキちゃんははてなを浮かべる。いや、ロビーアクションで本当にはてなを浮かべたんだよ、この子。
「なんで?」
意味がよく分からないらしい。
「十二人マルチパーティってことは、私が入ったら十二人の枠を一つ使ってしまうでしょ。私のレベルは高すぎるから、二人が行く難易度だと私が手を出したら簡単に終わっちゃう。それは分かるね?」
私達がいける最高の難易度は《ハード》だ。PSO2は同じクエストでも難易度が幾つか設定されていて、自分のレベルで参加できる難易度が違う。
確かにレベル75のジギーさんが手を出したら、あのダーク・ラグネを一瞬で倒したジギーさんなら、ほとんどの敵は蒸発するように倒されていくだろうなあ。
「だから私は参加しても手を出せない。十二人の枠を使っているのに、手を出さない人間がいるのは迷惑だってのも、分かるね」
ジギーさんは諭すようだった。気がする。だってチャットだし。
「それに、私が参加しなければ、この難易度に参加したかった誰かがその分入ってこれる。行きたい人がみんなで行けるのが理想だからねえ」
なるほど。緊急クエストは身内だけのクエストじゃないことが多いから、そういう配慮も要るんだ。
「でも、先生がいないクエストって、ちょっと不安だね」
ウィッキちゃんの言葉は、私も分からなくもない。ましてやはじめての緊急クエストなのに、いつもアドバイスをくれたジギーさんがいないのだから、その不安はかなりのものだ。
でも。
「ウィッキちゃん、二人で行ってこようよ」
私はウィッキちゃんにそう言った。
「二人で行かなきゃ、だよ」
そう、行かなきゃ、だ。だって、いつまでも私達はジギーさんがいないと遊べないなんて、それじゃ駄目だと思うもの。
「うむ。丁度いい機会さ。二人でがんばって行ってきなさいw」
ジギーさんは笑って言ったようだった。
●
防衛任務発生と同時に、私達はキャンプシップに飛び乗った。惑星リリーパ上空に待機したシップの中で、アイテムなどの最終確認を行う。
「えーと」
私はウィッキちゃんに《ムーンアトマイザー》を忘れずにねって、言おうとした。ムーンアトマイザーとは死んだ仲間を蘇生させるアイテムである。これがあれば5回までだけど、仲間を生き返らせることができる。通称ムーンとか、月とか呼ばれるアイテムだ。
で、チャットを入力し始めた瞬間。
「転送装置起動。30秒以内に転送装置に向かってください」
システムメッセージが突然表示された! 三十秒!? え、遅れたらどうなるの!? 急がないと駄目!?
「ヤバイ! リリちゃん、行こう!」
ウィッキちゃんがダッシュでシップの出口であるテレパイプに飛び込む。私も慌てて飛び込んだ。待ってよウィッキちゃん!
二人で急いでリリーパに降り立つ。すると、目の前の転送装置と思しき光の輪の中に、既に沢山の人が待機してる。
「3、2――」
転送装置の起動秒読みと思われるシステムメッセージが、英語発音と共にでかでかと画面に描かれた!
待って待ってー!
私達は必死で転送装置に飛び込む。と、同時に転送が開始。次の瞬間にはとってもひろーいフィールドに立っていた。
「ここが採掘基地――」
ものすごく広いフィールドに、等間隔で三つの塔が並んでいる。南の方に塔があるせいで、北の方のだだっぴろさが強調されている。
確かこのクエストの拠点は建設途中だったんだっけ? だからこんな広いところなのかな?
そんなことを思っているのもつかの間、気がついたときには周りのアークスは全員散り散りばらばらに駆け出していた。
あ、えっと、あ、どうすればいいの!?
「リリちゃん! とりあえず挨拶しとこうよ!」
急にウィッキちゃんが言い出した。あ、挨拶? そうだ、そうだね。挨拶は大事だ。
「よ、よし」
私はしどろもどろとオープンチャットを打ち込む。
「よろしくお願いします!」
「よろしくでーす!」
ウィッキちゃんのチャットと一緒に表示される。
普段はウィッキちゃんとのパーティチャットだから、緊張するな!
とか思ったら。
……。
返事が返って来ないよ!
こ、これが世間の厳しさなんだろうか……。
「チャット、返って来ないね」
「うん・・・」
私は頷いて、周りを見る。どうやらみんなフィールドに落ちてる結晶を拾い続けているようだ。みんな忙しいのかー。
「リリちゃん大変! 画面の右端見て!」
ん? なんだろう? ウィッキちゃんの言葉に右端を見る。
そこにあったのは、カウントダウンを続けるタイマーだった。
「第1WAVE開始まで、あと5秒」
しまった! もうクエストは始まってるって事なのね!? それでみんな結晶拾ってて返事が来ないんだ!
「ウィッキちゃん! 急ごう!」
「うん!」
慌てて私達も結晶を拾い出す。フィールドが北にすごく広いから、まばらに落ちてる結晶はほとんど拾えない。
ああ、もう第1WAVE始まっちゃう!
その時、一つのオープンチャットが表示された。
「よろしくです!」
それはさっきの私達の挨拶に応える声だった。たった一人、『みんみん』さんというアークス。
うう、ありがとうみんみんさん。ちょっと勇気付けられたよ……。
とかやってるうちに、どどーんとかいう音と共に第1WAVEが始まる。ああ、結局結晶はほとんど拾えてないや……。
画面の右端に表示された結晶ポイントの数は180くらい。ほとんど他の人が拾った数字だ。うう、これが多いのか少ないのかも分からないけど、私達が参加してないから少ないんだろうなあ……。
申し訳なく思っていてもエネミーは来る。どうやら北からどんどん沸いてくるらしく、早くもフィールドの北のほうからダメージの数字がいくつも見える。
わ、ダメージは見えるけど、エネミーの姿は見えない。結構遠い! 私達も急いで行かなくちゃ!
「リリちゃん、がんばろう!」
ウィッキちゃんが私を励ましながら前線に走り込む。ウィッキちゃんは強いなあ、やっぱり。
最前線に到着すると、大量の敵と十二人のアークスが戦いを繰り広げていた。みんなの激しい攻撃でエネミーがどんどん倒れていく。
わあ、みんな強い。これなら結構楽勝なのかも。
そう思ったとき、マップの右側にエネミーの反応が出た。みんなでそっちへ走る。わー、運動会みたいでちょっと面白い。
右側のエネミーもあっさり倒されていく。私達も攻撃に参加した。遠距離攻撃が出来る私達だから、わりと楽に攻撃に参加できる。おお、いいぞいいぞ。
その時、マップの逆の方向。左側にエネミーが沸いた。あれ? これって結構遠くない?
一斉にみんなが左に走る。みんな結構早いけど、もともと位置関係的にエネミーの方が拠点に近い。これって間に合うかな?
エネミーがもう少しで拠点にたどり着くかというところで、一人のアークスが放った《ラ・フォイエ》がエネミーの先頭を捉えた。
炎の爆発が次々にエネミーを巻き込んでいく。巻き込まれても無事だったエネミーは走って行く私達に向かってくる。おお、これなら大丈夫だね。
そんな形であっちに行ったりこっちに着たり、飛び道具の活躍が功を奏して第1WAVEは終わった。
やった! 拠点はノーダメージだ!
「リリちゃん! いけそうだよ!」
「うん!」
思ったより簡単なクエストだったのかもしれない。ちょっと構えすぎたかな。
丁度いいと思って、私は第2WAVEが始まるまでの間に施設を見て回ってみた。もちろん結晶は拾いながら。
拠点にはバリアのほかに回復という選択肢もあるようだった。どっちも二回使えるみたいだけど、二回目は結構ポイント高いなー。
銃座も確かめよう。フィールドにいっぱいあるこの四角っぽいのがそうかな? お、アクセスしたら《フォトン粒子砲》なんていうのもある。5000ポイントか! 凄く高いなあ。どんな兵器なんだろう。
こうなると、ちょっとワクワクしてきた。
第2WAVEが始まる。よーし、運動会がんばるぞー!
同じような流れで第2WAVEを戦っていく。ふふふ、簡単簡単ー。
ん? あれ? なんか拠点が赤く点滅してる。
マップを良く見てみると、エネミーのアイコンが拠点に張り付いてる!? え? なんで!? いきなり拠点のすぐそばに沸いたの!?
「リリちゃん! ディカーダ!」
いち早く拠点まで下ったウィッキちゃんが叫んだ。《ディカーダ》! 瞬間移動で距離を詰めてくるエネミーだ! あのエネミーってそんなに長距離をワープできるの!? 知らなかった!
慌てて私も下がる。でもその頃にはディカーダはもうウィッキちゃんと他のアークスに倒されていた。
うう、悔しい。こんなエネミーもでてくるのね!
と、拠点が赤いもやに包まれる。マップ上でも拠点のアイコンが赤いマーキングで覆われる。なになに!? 今度は何!?
拠点の赤いもやが消えると、拠点に巻きつくように不気味な植物のような赤いダーカーのコア、その大きな奴が出現した!
わ、拠点の耐久度がどんどん減っていく!
慌てて巻きついた巨大コアを攻撃する。ウィッキちゃんも一緒に攻撃してくれたからすぐに破壊できた。でも、拠点の耐久度はそこそこ減ってしまった。しかもそんなことをしてる間にも他の拠点にエネミーはどんどん侵攻してくる。
油断してた。これはちょっと考えて戦わないとつらいぞ……。
「ウィッキちゃん、下って戦おう! 下れば移動距離が少なくて済むよ!」
私はとにかく思いついた戦法をウィッキちゃんに伝える。今は考える時間がない。思いついたことから実行しなくちゃ!
私とウィッキちゃんは後ろに下って警戒しながら応戦する。前線ではまだそこに止まって戦ってる人たちも多いようだ。
こうしてみると、わりと戦い方はぐちゃぐちゃだなあ。
戦いながらちょっと思う。戦い慣れた人がいてもいいのじゃないかなあ? でもそれは考えてみて違うなと結論付けた。だって、私とウィッキちゃんはこのレベルで防衛戦が初めてで、それでこれだけ混乱してる。そう考えれば、このレベル帯は経験が浅い人の方が多いはずなんだ。
つまり、周りの人は私達と似たような状況の人も多いのかもしれない。それは確かに戦い方もぐちゃぐちゃになるよね。
「私達で拠点周りは警戒しよう!」
「うん!」
ウィッキちゃんが勢い良く返事をする。多分ウィッキちゃんも同じようなことは思い至ってるんじゃないかな。
そのあとは拠点周りを警戒したおかげで被害も少なく、第2WAVEは終了した。
それでも拠点は結構ダメージを受けてるな。そこまで大きな被害じゃない。でも、第1WAVEからは考えられないダメージだ。
これはこの先も気をつけないと不味いなあ……。
「みんみんさんが緑拠点の耐久度を回復しました」
システムメッセージが表示された。そうだ回復! 拠点には回復機能があるじゃないか! ありがとうみんみんさん! 思い出したよ!
私達も拠点を回復させる。他のアークスも次々と回復に走る。
一人の回復量は少ないけど、みんなで回復すれば結構――。
そう思ったところで気がついた。回復を使わない人もいる。
出し惜しみなのかな? なんだろう? 結構使わないと危ないと思うんだけど。
でもまあ、二回しか使えないし、二回目を使うには高いポイントも要求される。出し惜しみも分からなくはないかな。
「へー、回復ってみんなが使っても大丈夫なんだね」
ウィッキちゃんが呟いた。
ん? そっか! 人によっては〈全員で一回しか使えない〉と思ってる人もいるのかも!?
拠点にアクセスして出てくる情報には、何ポイントでその機能が使えるのかしか出てこない。残り使用回数とかは書かれてない。私は素で全員がそれぞれ書か
れてる分だけ使えると思っていたけれど、人によっては〈他人が使ったらそこで使用回数終わり〉と思ってる人もいるかもしれないんだ!
「うーん」
私は思わず呟いてしまった。
「リリちゃん、どうしたの?」
「うん、ちょっとね・・・」
どうしたらいいんだろう。いや、どうすればいいのかは分かってるんだけど、それをするのに戸惑いがあるというか……。
そんなことを考えているうちに第3WAVEが始まった。とりあえず、考えてしまうくらいなら今できることだけでもやる形で行こう。
「敵が強化されてます! 注意してください!」
オペレーターの声と共に、空が赤くなった。え? 何これ? 敵の強化? そんなのあるの!?
そんな心の声を呟いていると、マップの北側にエネミーの群れが出現する。わ、今までは一つの出現ポイントのエネミーがいなくなるまでは他のポイントに現れなかったのに、三つのポイントからいっぺんに来た!?
とにかく迎撃しなくちゃ。前に出過ぎないように気をつけて、とりあえず私達がいない拠点は他のアークスを信じるしかない。
エネミーがどんどん近づいてくる。ん? なんだか見たことのないエネミーがいるなあ。わ、移動速度が早い! 《ゴルドラーダ》? とにかく倒さなくちゃ!
ウィッキちゃんと一斉に攻撃を始める。私達のほかにもさっきのみんみんさんというアークスが一緒にいてくれた。
雷と光と、銃撃がゴルドラーダに降り注ぐ。普通のエネミーならそれだけで倒れるはずだ。でも、こいつ倒れない!?
ゴルドラーダはアークスよりも一回り大きな人型の体でぐんぐん走って近づいてくる。と、急にジャンプした! え? どこに行ったの!?
次の瞬間、まるで金属が地面を穿つような音とともに、落ちてきたゴルドラーダがみんみんさんを踏み潰した。
「申し訳ないですー(死亡)」
一撃で倒されちゃった!? 不味い! こいつ強いよ!?
ゴルドラーダ以外にもエネミーはいる。みんみんさんを助けたいけど、攻撃しないとどんどん攻撃されちゃう!
その時、ウィッキちゃんが即座に《ギ・ゾンデ》を繰り返し撃ちこんだ。横に走る稲妻が周りの敵をどんどん射抜いていく!
攻撃を連打したウィッキちゃんの《ヘイト》が上昇して、周囲の敵が全てウィッキちゃんに向かっていく。そのままウィッキちゃんは敵を引き連れて離れた場所に走る! ナイスウィッキちゃん!
急いで私はムーンを投げる。空中で光が広がり、みんみんさんに活力を与える。
「ありがとうございます~」
オートワードと共にみんみんさんが起き上がる。
よし! 次はウィッキちゃんを助けなきゃ!
エネミーと戦うウィッキちゃんに向かって走る。今行くよ!
と、みんみんさんがウィッキちゃんを襲う敵に突っ込んだ! そしてそのまま殴られて死亡した……。
えー!?
私は必死でムーンを投げた。まだウィッキちゃんにヘイトがあるから近くても大丈夫だ! でもこんな簡単に殺されちゃうなんてちょっと。
「ありがとうございます~」
起き上がったみんみんさんはそのままゴルドラーダの近くに走り込む。《長銃(アサルトライフル)》を一発打ち込むと同時に、ウィッキちゃんが避けた攻撃に巻き込まれて……。
「申し訳ないですー(死亡)」
えええええええええ!?
これ! これどうなの!?
またもや私はムーンを投げる。これじゃいくつムーンがあっても足りないよ!
起き上がったみんみんさんは今度は前に出すぎずに射撃を開始した。よ、良かった。とりあえず私も攻撃しなくちゃ!
幸いにウィッキちゃんはダメージを受けていない。私も攻撃に加わって良さそうだ。
そのままどうにかゴルドラーダと他のエネミーを倒した。うーん、敵が強い。強化されてるとか表示されたけど、それ以上にあのゴルドラーダとかいうエネミーが凄く強い。
そう思った瞬間、拠点の近くにエネミーの群れの反応! わ! これ全部ゴルドラーダじゃない! なにそれ!?
しかもウィッキちゃんのアシストで離れた位置に移動していた私達は、ゴルドラーダよりも拠点に遠い。最悪だ!
ゴルドラーダは一斉に拠点に走る。中には射撃武器で武装していたり、口から赤いエネルギーを吐き出すゴルドラーダまでいる! わああ、間に合わないー!
大量のゴルドラーダに押しつぶされるように、拠点が一つ崩れ去った。ほとんど一瞬の出来事。たったそれだけの時間で拠点は崩れてしまったのだ。
うう、最初が勢いづいてた分、やられるとがっくりする……。
拠点を壊し終わったゴルドラーダたちはゆうゆうと消えていった。くう、こっちのことは眼中にもないのか!
「リリちゃん! まだ終わってないよ!」
そうだ、他の拠点を守らなきゃ……。
そう思った瞬間、第3WAVEは終わりを告げた。
他の拠点を見回してみる。
うわ……。
見事にダメージを受けて、ぼろぼろになった拠点が二つ、そこにはあった。
辛くも耐久度が残っているけれど、かなりぼろぼろだ。これはもたないかも……。
「がんばろ!w」
ウィッキちゃんが声を掛けてくれる。そうだ、まだ終わったわけじゃないもんね……!
「ウィッキちゃん! 拠点が減った分守りやすいと思う! 二人でそれぞれ分かれて対応しよう!」
残った拠点に一人ずつ張り付いて、確実に防衛要員を置く作戦。これならまだ敵の数に対応しやすい。
「がんばろう!」
「うん!w」
ウィッキちゃんが頷いてくれる。wをつけてるのは、多分私への気配りだな。笑って見せてるんだ。がんばらなきゃ!
この作戦が功を奏して、辛くも第4WAVEを乗り越えた。
相変わらずゴルドラーダは強い。だけど、今度はエネミーの強化というイベントもなかったし、ダメージを受けつつも何とかなった。
「拠点が二つだと守りやすいよ! いけるいける!」
ウィッキちゃんが励ましてくれる。私の作戦を褒めて、立ち直らせてくれる。やっぱりウィッキちゃんは凄い女の子だな。
第5WAVEが始まる。でも、今の私はウィッキちゃんの言葉で心強い。とにかくやりきってやる!
その時――、
「大型の敵性反応! 注意、注意です!」
オペレーターの叫び。同時に現れたのは――、
「ダーク・ラグネ・・・」
画面の前で、私は思わず呟いてしまった。
あの強敵が、この戦場に現れたのだ。確かに私達はラグネを倒せるぐらいに成長した。だけど。
拠点の耐久度は半分以下……。
そう思っている間に、ラグネは大きくジャンプ。一足飛びに拠点に張り付くと、黒い雷撃で全てを粉砕した……。
to be continue...
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