007未来(あした)に一歩、踏み出そう





「ワンポイント! これで!」
 私のオートワードと共に、《長銃(アサルトライフル)》のフォトンアーツ、《ワンポイント》が炸裂する。
 岩のようなごつごつとした肉体を持つ巨大なナベリウス原生種、《ロックベア》の頭部に銃弾が連続で突き刺さる。
「オオオオオ!」
 両手を上げて叫ぶロックベア。それがそいつの断末魔だった。

「STAGE CLEAR!」

「ふう」
 私は銃を降ろして一息つく。
 ここはナベリウスの森林地域。私、リコリスが何をしているかというと、《レンジャー》というクラスを試していた。
「ウィークバレットはいろいろ制限もあるのね。気をつけなくちゃ」
 《ウィークバレット》。前回の防衛戦でみんみんさんというアークスが使っていたマーキングのことだ。
 つまるところ、私はみんみんさんの影響で他のクラスをいろいろと知ってみようと思ったのだ。
 防衛戦から帰ってきた私とウィッキちゃんは、ジギーさんに分からなかったことをいろいろ聞いた。
 最後に拠点を爆破した爆弾は《ダーク・ビブラス》が生み出していたこと、巨大なビブラスの足元で戦っていたから爆弾をビブラスが生み出したことに気づかなかったこと、みんみんさんが使っていたマーキングのこと、一つ一つを確認するように教えてもらった。
 そこでジギーさんは言ったのだ。
「いい機会だから、他のクラスも触ってみるといい」
 と。
 ジギーさんが言うには、自分が知らないクラスの細かいことは、触ってみないと分からないままであることがほとんどだと。
 他のクラスを理解すれば、他人が何を考えているのか、何をして欲しいのか、そういうことが見えてきて、より上のレベルのプレイに繋がるということだった。
 私は深く頷くことが出来た。だって、みんみんさんたった一人を理解するのに苦労したし、理解できたらまったく違うくらい私達は強くなれた。
 それゆえに、今私はレンジャーを試しているのだった。
 ちなみに、そのあとウィッキちゃんがノリだけで「じゃーファイター試すー!」とか言い出したんだけど。
 《ファイター》っていうクラスは超接近戦の打撃クラスだ。で、やってみたウィッキちゃんはというと。
「いっぱい攻撃できるけどいっぱい攻撃されちゃう〜@@」
 と、目を回していたりして。
 私達は、まだまだ知らないことばかりなんだなあって、思った。
 だからこそ、まだまだ楽しんでいけるんだなあって、実感したんだけど。

「帰還許可が下りた。帰還しろ」

 オペレーターのメッセージとともに帰還用テレパイプが出現する。
 さて、とりあえず一旦帰ろう。
 私はオラクルのロビーへと帰った。


 ●


 アイテム整理しようかな。
 ロビーに戻った私は倉庫端末に向かって歩く。
 PSO2も他のゲームの例に漏れず、個人用の倉庫がある。いろんなところにある緑色の端末からアクセスするだけで倉庫が使えるので、わりと便利だ。
 私はロビーのカウンターから程近い端末に近づいた。
 と、端末に向かって操作をしているらしき見知った人物を発見した。
 いや、見知ったというか、細かい交流はないんだけど。
 つまり、ちゃんと交流したことはないけど、勝手に存じ上げてる人物なわけで。
 みんみんさんだった。
 広いPSO2の世界、みんみんさんとはあの防衛戦以来会ってはいない。もともとフレンド申請とか、そこまでやってたわけじゃなかったから。
 ちょっと迷ったけど、話しかけることにした。
 なんていうか、お礼が言いたい。
 あの防衛戦で私がオープンチャットをする勇気をくれた、その一端は確実にみんみんさんだ。
 勝手にそう思ってるだけだけど、でも私にとっては事実だったから。
 私はみんみんさんに話しかけた。
「あの、こんにちは」
 なんだかマヌケな言い方のような気がする。いやいや、ここでしりごむ分けには!
「こんにちは^^」
 みんみんさんから挨拶が返ってきた。ちょっとほっとしながら、会話を続ける。
「えっと、先日防衛戦でご一緒したんですが、覚えてますか?」
 聞いてみる。単純に忘れているかもしれないし、あの時は忙しかったから名前までちゃんと覚えていたかは分からない。
「おぼえてますよー^^」
 おお、覚えてくれてたんだ! しかし、防衛戦でもそうだったけど、この人は漢字使わない主義なんだろうか?
「わあ、嬉しいです!」
 嬉しい。そりゃあ嬉しい。だって、一緒に戦って、覚えていてくれたんだもの。
「あのときは、りこりすさんのおかげでくりあできたかんじでしたしw」
 わ、そう言われるとちょっと恥ずかしいぞ!
「いえ、そんな!」
 私は言う。
「あの時、みんみんさんが挨拶に返事をしてくれたから、ウィスパーに応えてくれたから、チャットをしようって思えたんです」
 素直な私の、素直な思いだ。
「だから、ありがとうございました」
「いえいえそんなー@@」
 みんみんさんは謙遜するけど、実際みんみんさんが応えてくれてなかったら、私は何も言い出せないままだったし、あの時の防衛戦も失敗してたと思う。
「そうだ」
 みんみんさんは言った。
「ふれんど しんせいしてもいいですか?」
 お、おお? フレンド! 実はウィッキちゃんとジギーさん以外の人とフレンドになるのは初めてだったりして。
「ぜひ! よろしくお願いします!」
 つい意気込んでしまった。
「ありがとうございますー^^ わたし びたなのでちゃっとへんですけど よろしくですw」
 ……びた?
 びたってなんだろう?
「びた? って、なんですか?」
 聞いてみる。
「えーっと」
 暫く間を置いて、返事が返ってきた。
「プレイステーションVita です!w」
 ビータ! びたってVitaのことね!
 『プレイステーションVita』、通称PSVita。わりとみんな知ってる人が多いと思うけど、ソニーが出した携帯ゲーム機だ。
 PSO2はPSVitaでもサービスしていて、パソコンのプレイヤーと一緒にゲームで遊べる。『マルチプラットフォーム』とかいうやつなんだと、ジギーさんから聞いたことがある。
 みんみんさんはVitaだから、キーボードがなくてチャットがやりづらいんだ。だからひらがなばっかりなんだ。そういうことか。
「チャットが変かもしれないですけど、ちゃんと伝わるから大丈夫ですよ!」
 私はみんみんさんに答える。
「よろしくお願いします!」
「よろしくです^^」
 考えてみれば、身内以外のフレンドって、これが初めてかも!? ジギーさんはまあ、特殊だとして置いておこう。
「あ でいりーまだなんですが いっしょにいきませんか?」
 みんみんさんからデイリーオーダーに誘われた。断る理由なんてない。
「ぜひ!」
 私はみんみんさんをフレンドリストに追加して、急いでレンジャーからテクターに戻す。
 こうやって、新しいフレンドが増えて、自分の輪が広がっていくんだな。きっとそれが、オンラインゲームなんだ。
 なんだかワクワクしてきた。
 みんみんさんとクエストに行くことも、〈これから会うだろうまだ見えないフレンド〉との出会いも。
 私はこれからも、ワクワクしながらゲームをしていけるんじゃないかな! そんな気がする!
 オンラインゲーム、やってみてよかった!
「いきましょう^^」
「はい!」
 私はキャンプシップに飛び乗る。きっと行き先は、まだ見えない。
 でも、きっと素敵な未来だ。


END







 ●


 ぴろりん♪

「PSO2始めたけど、フレンドができない>< だれか〜!」

「私でよければ、フレンドになりますよ?」

「ほんとですか!? @@」

「ええ。私はいつも、暇してるからねw」

「やったー! ^^」

 ぱららぱっぱぱー♪


to be...


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