03『季節を分ける、鬼のエレジー』

登場人物
レヴィ:笑った赤鬼
リーン:司会のお姉さん
アレス:後輩上司
ジュジュ:投げっぱなしジャーマン
カイト:苦労した赤鬼
ニカ:泣いた青鬼




 ブレックス・オーガン:暴走型身体強化異能の持主。その精神は既に異能に侵されており、まともな思考回路は持っていない。暴走の条件は不明だが、年に数回暴走を起こし、犯罪を犯す。現在刑務所脱走事件で脱走したまま行方不明。市民に警戒を促す。
 ――シエル・ロア指名手配一覧より抜粋


 ●


 甲高い音が聞こえる。
 決して大きくない、だが、周囲にいるものの耳を確かに震わせる音だ。
「いかがです? ガーラックさん」
 赤茶色の長い髪を持つ青年の声に、ガーラックと呼ばれた紳士風の男は顔をしかめた。
「アレス、フォルックスファミリーは紅龍会に従属したというのか?」
 言い出すガーラックの目は、しかしアレスではなく、彼の後ろに控える青年を見ていた。
 シックな洋風の応接間。しかし、アレスの後ろに控える青年は異質だ。赤いダッフルコートに長めの黒髪、そしてその手は幾本かのナイフをジャグリング(お手玉)している。
 甲高い音は、ダッフルコートの青年がジャグリングをする音だ。
 ガーラックが後ろの青年を見た様子を眺め、アレックスは言葉を紡いだ。
「ガーラックさん、言葉には気をつけたほうがいい」
 刹那、コートの青年が持つナイフの一本が手元から掻き消える。
 遅れたように響く、快音一つ。
 音に引かれてガーラックがテーブルを見れば、自分の目の前に突き立つ、一本のナイフが見えた。
 アレスは言う。
「彼は俺の先輩でして」
 部下とは言わない。
「紅龍会でも実力のある人間を回してもらったんですよ」
 ゆっくりと言う。
 その言葉に合わせるように、ジャグリングをやめたコートの青年は、落ちてくるナイフをすべて器用に手におさめ、ダッフルコートを翻してみせる。
「まさか、――ダッフル・レヴィ」
 ガーラックの驚きを引き継ぐように、アレスは言葉にした。
「先輩は俺の言うことをよく聞いてくれるんですよ」
 にこりと笑う。その横で、テーブルに近づいたレヴィがナイフを回収した。
 ガーラックは目を閉じる。そして、意を決したように瞼を開いた。その目には、確信が宿る。
「いいだろう。アレス、私の一族は君をフォルックスの新しいボスと認めよう」
 握手を交わすアレスとガーラック。その横で、レヴィは思う。
 今日のジャグリングは、九十点かな――。


 ●


「仕事もだいぶ進みましたね」
 ガーラックのいなくなった応接間で、アレスはレヴィに笑いかけた。
「……ん、良かった」
 言葉少なに、レヴィはテーブルの上のケーキを頬張る。
 レヴィという青年は、その異能の関係上常に食い物を摂取せねばならない。定期的なティータイムはアレスの最近の日常であり、彼のストレスを薄めることに一役買っていた。
 アレスは思う。思ったよりも順調で何よりだと。
 紅龍会が寄越したのは、凄腕だが暗殺しか脳のない幹部であるレヴィだった。新米のボスであり、ばらばらになっている自分のファミリーを再び結束させなけ ればならないアレスにとって特に使いでのある手駒ではない。それどころか自分の首をかく用意があるのだと脅されているに過ぎない。
 そこでアレスが考えたのがジャグリングだ。
 幸いにしてレヴィは暗殺の腕は一流であり、その名前を知られている。それを利用し、紅龍会との関係を示す。従属ではなく、自分の力としてレヴィを使っていることをアピールし、新しいボスの力を示しているのだ。
 他の組織に対抗するときに使えば紅龍会からは出る杭として打たれるだろう。この行為は紅龍会よりもフォルックスファミリーが上であるかのように見せるこ とですらある。だが、自分の組織の内部を固めるためなら紅龍会も目くじらは立てない。多分それがレヴィを送ってきた意味でもあるのだ。
 実際、ジャグリングは上手くいった。吃音症で上手く喋れないレヴィは基本的にジャグリングをしているだけ。あとはアレスが自分との関係を示す。アレスに力があると相手が思えれば、もともと同じファミリーだった人間だ、手を結ぶのは問題がない。
 アレスしては、今のファミリーを纏め上げたあとこそが、本番になるのではないかと思っている。そこから先はアレスがまとめたファミリーの実力次第だからだ。
 そしてそのために、アレスは今の仕事と平行で様々なことを考え、手を回しているのである。
「どうか、した、の――?」
 レヴィから不安そうな問いが来た。いつの間にかアレスは今後について思案する、険しい顔つきになっていたらしい。
「ああ、すみません。ちょっと考え事を」
 取り繕うアレスに、レヴィは言う。
「僕に出来る、ことは、するよ。だって、もう、アレスは後輩、なんだから」
 アレスは思う。相変わらずのいい人だと。
 アレスがレヴィと出会って一番驚いたのはこの性格であり、その純粋さだ。
 暗殺者なんていうから、もっと黒い人間が来るのかと思ってたんだが――。
 今やレヴィはアレスからして放っておけない先輩というていである。
「ありがとうございます。でも、先のことに関しては自分たちの問題ですから」
 ありがたくは思う。だが、自分たちの問題をレヴィに加担させるほど、ずるくは生きられないアレスだ。
「じゃあ、今の仕事、がんばる、よ」
 レヴィの言葉に、おのずとアレスは笑顔になる。
「じゃあ、その今の仕事の話なんですが」
 ゆえにアレスは切り出した。
「数日ほど、休暇にしませんか?」
「休暇――?」
 オウム返しに聞きながら、レヴィは二つ目のケーキに噛り付いた。


 ●


 シエル・ロア異邦人街。昼に差し掛かったこの街は今、少々騒がしかった。
 街のいたるところから爆竹が鳴り響き、民家の中からは豆をまく音と、福を中に呼び込み災いを外に追い出す声が聞こえてくる。
 節分だ。
 主に東洋の文化を色濃く残す街であるここでは、様々な季節の分け目における風習が重なって行われている。
 そんな街の中を、レヴィは一人歩いていた。
「休み、か――」
 呟いてみる。
 アレスが急に言い出した、数日間の休暇中だった。アレスに言わせると、今後のことを考えて手をまわしておきたい案件があり、レヴィの仕事は少し延期させたいという。暫く仕事が続いていたので休んではどうかというものだった。
 うーん、どうしよう――。
 急に休みと言われても、休みに別段することのないレヴィである。ゆえに、あてども無く彷徨うのみであった。
「お、――レヴィ!」
 突然、声をかけられた。いかにもこちらを見つけてうれしいといわんばかりの声だ。
 振り向いたレヴィに小走りで駆け寄ったのは、ジュリオだった。
「こんなところで奇遇だなあ」
 ジュリオの声にレヴィはうなずく。休日に偶然親友と会えるとは、なかなかうれしいものだ。
「奇遇だからさ――」
 ジュリオは言った。
「一仕事頼まれてくれ」
 ジュリオの顔にはにこやかな笑みが浮かべられていた。


 ●


「は? 鬼について教えろだあ?」
 紅龍会支部の一室。その簡素な部屋で携帯電話を顔に寄せたニカは、素っ頓狂な声を上げた。
[うん、教えて、欲しい]
 携帯電話の向こうからは、相変わらずのどもり勝ちな声が聞こえた。
「鬼っつったらお前、――鬼だろう」
 それ以外の何であると言うのか。
[もっと、詳しく]
 詳しくったってお前――。
 そんなことを俺が知るか、そう言いたいところだが、とっさに嘘が口をついた。
「鬼ってのは、ヒーローなんだよ」


 ●


「おにはーそと! ふくはーうち!」
 容赦の無い豆が宙を舞う。
「みんなー、元気に投げてねー!」
 追い討ちをかける容赦の無いお姉さんの声。
「鬼はここから追い出そー!」
 更に追い討ちをかけるもうひとりのお姉さん(?)もいる。
「「「わー!!」」」
 もはや声などどうでもよく、感極まった子供たちが一斉に豆を投げる。雨の様な飛礫(つぶて)が飛んだ。
 異邦人街の孤児院、『緑の木』。今ここでは、壮絶な豆まきが行われていた。
 年端も行かない子供たちの投げる豆は一切の加減を知らない。そして二人のお姉さんであるリーンとジュジュがそれを炊きつけ続けている。
 もはや弾丸の嵐のようなそれにさらされるのは三人の鬼、のお面を被った男たち。すなわち――。
「痛い痛い痛い痛い痛たたたたたたた!!」
「てめえら殺す! 絶対殺す! 必ず殺すと書いて痛たたたたた!!」
「……」
 カイト、ニカ、レヴィの三人であった。
「くそ! 痛てぇ! 痛てぇぞマジで! なんか俺だけ投げられる豆の量が多くないか!?」
「そりゃあ、ニカだけ青鬼のお面なんて被るから……」
「青鬼だけ差別しやがって畜生! お前らまとめて悪夢を痛い痛い痛い!!」
 そっとカイトはニカを盾にする位置取りをしている。レヴィは思った。カイトもやるようになったと。
「ええいくそ! なんでダッフル野郎は微動だにしねえんだよ!」
 ニカの悪態にカイトが見ると、レヴィは手を腰に置いて仁王立ちをし、豆をその全身で受けている。どことなく満足そうだ。
「ほらみんなー! もっと投げて投げてー!」
 ジュジュが子供たちを更に炊き付けた。
 あの人が鬼なんじゃないかな――。
 カイトはそう思いつつ、ニカの後ろに隠れることに余念が無い。
「でもなー。マフィアが孤児院の豆まきを手伝わされるとは――」
 思っても見なかった。カイトは胸中でそう付け足しつつ、ここまでの経緯を思い返す。
 流れは単純だった。ギルド経由で孤児院の節分イベントを手伝う話がジュリオ(ジュジュ)の元へ来た。しかし、人手が足りず、この孤児院に派遣できる人員 がいなかった。そこで偶然通りかかったレヴィにジュリオが一仕事頼んだのだ。ニカやカイトはレヴィに呼ばれて着たに過ぎない。
 ニカはレヴィ兄に報酬をたかってたけどね――。
 カイトがそう思ったとき、ジュジュが新たな豆の袋を開けた。
「みんなー、豆はもっとあるからねー! もっとまいてねー!」
 ジュジュの足元には大量の豆の袋があった。
「「え!? まだあるの!?」」
 ニカとカイトはたまったものではない。鷹揚にうなずくのはレヴィだけだ。
「じゅ、ジュジュさん、ちょっとまきすぎじゃないですか?」
 さすがにリーンが止めに入った。しかしてジュジュは――。
「いーのよー。細かいことは気にしないで」
 追加で袋を開けたのだった。
「鬼だ! 鬼がいる!」
 戦慄したニカとカイトをよそに、豆まきは更にヒートアップしたのであった。
「「ぎゃー!!」」
 もはやニカもカイトも悪態をつく暇も無い。上がるのは純粋な悲鳴である。
 そのとき。がらり、という場違いな音がした。
 木製の硬いものがすれるようなその音は、つまり引き戸を開けた音であり、孤児院のこの部屋に誰かが入ってきたことによるものだ。
 突然の音にすべての人間が部屋の戸口を見る。
 そこにいたのは――。
「――鬼だ」
 鬼だった。カイトの呟き通り、戸口に立っていたのは鬼だ。ただし、カイトたちが使っている紙でできたお面ではない。非常にリアルな、まさにそれは本物の鬼だった。
 豆をまいていた子供たちも、その手を止めて突然の闖入者を見る。
「……本物の、鬼?」
 言ったカイトにニカが突っ込んだ。
「んなわけあるか! にしてもよくできてんな、そのお面。おいオカマ野郎、こいつもお前が呼んだのか?」
 ニカの問いにしかし、ジュジュは言った。
「知らないけど……。あんたたちが呼んだんじゃないの?」
 不意に緊張が走る。この闖入者は、誰が呼んだものでもないのだ。
 すかさずリーンが子供たちを背後にかばった。そのうえで、闖入者を観察する。
 髪はざんばら、顔はあまりにもリアルな鬼。服装は至って平凡なジャケットにズボンだ。
「あなたは、――誰ですか?」
 リーンが油断無く問いかける。
「――う」
 闖入者、鬼が呻いた。
「質問に答えなさい!」
 ジュジュが啖呵を切る。鬼は声を出した。
「悪い子は、いねがあ――」
「……はい?」
 一瞬の沈黙。しかし次の瞬間、ジュジュが吹き飛ばされた。
「――!?」
 一瞬にして、鬼がジュジュを体当たりで吹き飛ばしたのだ。
 ジュジュは受身を取る。女の格好をしているが、元軍人だ。そのジュジュを吹き飛ばすとは只者ではない。この鬼はヤバイ。その場の人間がそう思い、動こうとしたとき。
 子供たちが泣いた。
 一斉に泣く子供たち。ジュジュたちはその声に一瞬気を取られる。しかし、その一瞬で鬼には十分だった。
「悪い子はいねがああ!!」
 鬼が子供の一人を抱え上げた。ジュジュが吹き飛ばされたことで出来た隙間を縫うように、素早くその手に取り、担ぎ上げる。
「ケンちゃん!」
 子供たちの中から声が上がった。
 しかしその声を振り切るかのごとく、鬼は踵を返して出口へ走る。
 誰もがまずいと思った。そのときである。
「でゅわ!」
 気の抜ける声とともに、戸口を塞いだ”鬼”がいた。レヴィ・コモゾロフである。
 鬼は気に留めずレヴィへ向かって走りこむ。しかし、レヴィは一旦、鬼を指差した後、
「へあ!」
 気の抜けた声とともに鬼に向かって突撃した。
「あ!? あいつ、俺が言ったこと真に受けてるな!?」
 ニカが叫ぶ。ニカが言ったこと、すなわち、「鬼はヒーロー」である。
 子供、ケンちゃんを抱えた鬼が、走りざまに空いている左腕を振るう。雑な動きだが、まともな人間では受けようも無い力と速さだ。対して、同じく走りこんだレヴィは、その腕を上に押し上げるようにしてかいくぐった。
「へいや!」
 レヴィの右拳が鬼に突き刺さる。鬼は後ろにたたらを踏んだ。しかしそれだけだ。
 鬼がレヴィを振り払うように左腕を繰り出し続ける。
「レヴィさん、ケンちゃんがいるから全力が出せないんですね……」
 そう言うリーンも手を出すタイミングを決められないでいる。カイトやジュジュにしても同じだ。鬼は凄まじい力で暴れている。レヴィはケンちゃんを意識していて組み付くことも出来ない。二人が止まらず動き続けていては、他の人間も加勢しづらい。
 そうこうしているうちに、レヴィがついに突き飛ばされた。レヴィも身体強化の異能の持ち主だ。だが踏みとどまることは出来たが鬼を外へ逃がしてしまった。
「悪い子はいねがあ!」
 凄まじい速さで駆けて行く。子供とはいえ人を一人抱えているとは思えない。
 追いかけて外へ出るものの、その姿はみるみる遠くなっていく。あの鬼も身体強化の異能なのだろうか。
「くそ、追いかけないと」
 ジュジュが言う。しかし鬼の速さにこのままで追いつくとは思えない。
「じょわ!」
 声に振り向いたジュジュは見た。レヴィが飛んだのである。


 ●


 シエル・ロア異邦人街。その空を、ひとりの鬼の面の男が飛んでゆく。
「鳥だ!」
「飛行機だ!」
「いや、あれは鬼だ!」
「でゅわー!」
 その日、シエル・ロアの空を鬼が飛んだ。


 ●


 レヴィは空を駆けた。正確には飛んでいるわけではない。屋根から屋根へ、たった一歩で飛び移り続けているのだ。
 相手の鬼は速い。しかし、屋根の上を直線で飛び続けるレヴィはそれに迫る速度を得ていた。
 レヴィの異能は力を出すことは出来るが、スピードが速くなるわけではない。しかし、力を速度に変える事が出来る『ジャンプによる移動』ならば障害物に阻まれず、速度が出せるのであった。
 やがてレヴィは、眼下に鬼を見つけ出す。そして追い抜く。屋根を踏み、高く飛ぶ。宙返り。空中で回転し、向きを変え、降り立つ。
「へあー!」
 鬼の前に立ちふさがった。
 さしもの鬼も驚いたか、足を止める。
 そして再びレヴィは鬼を指差した。その姿はまさにヒーロー。紙製の鬼のお面さえなければ。
「じぇあ!」
 レヴィが飛び出した。次の瞬間。
「じょ、じょわ!?」
 がっくりと膝を突いた。
「お、お面のおにいちゃん!?」
 ケンちゃんが慌てて問いかける。しかし、問われたレヴィはただ、効果音を口にした。
「ぴこんぴこんぴこんぴこん」
 腹が減ったらしい。
 しかし、そんなことはケンちゃんにはわからない。そして鬼も、容赦をするはずが無かった。
「ふん!」
 気合とともに放った蹴りは、レヴィを異邦人街の石畳に転がした。
「でゅ、でゅわー……」
 なおもヒーローの口真似をやめないレヴィだが、ピンチは演出できているらしかった。
「お面のにいちゃん! がんばって! がんばってよー!」
 ケンちゃんは叫びとともに、手に持っていた豆をレヴィに投げつけた。
 それは戦えないレヴィに対する抗議だったのか、それとも――。
 どちらにしても、レヴィがすることは唯一つだ。投げつけられた豆を、器用に口でキャッチした。
「じゅわー!」
 エネルギーは豆一個。たいした動きは出来ないだろう。ゆえに、レヴィは全力で立ち上がり、勢いのままにとび蹴りを放った。
「へあ!」
 鬼の顔面に突き刺さるようなとび蹴り。あまりにも形が綺麗に整った、ヒーローのようなそれは、鬼の顔面を砕いた。
「ぶほあ」
 形容しがたい声とともに、宙を舞う鬼。しかし、ケンちゃんも宙を舞う。レヴィは既に、動くことは出来ない。
 次の瞬間、レヴィが見たのは緑と赤の軌跡。一人の少女が走りこんでくる姿だ。
「ふ……!」
 少女が力を込めると、ケンちゃんはベルトから飛び込むように少女の腕の中へと収まった。
「間に合いましたね!」
 リーンだ。異能によってケンちゃんのベルトを引き寄せたのである。
 鬼は倒れて動かず、わらわらと孤児院にいたみなも駆けつけた。こうして、この事件は幕を閉じたのである。


 ●


 甲高い音が聞こえる。
 決して大きくない、だが、周囲にいるものの耳を確かに震わせる音だ。
「アレス、一つ聞くが」
 歳による深い皺を刻んだ老人が、おもむろに言う。アレスは「ああ、やっぱり聞かれるんだな」と思いながらも、聞き返した。
「なんでしょう?」
「そいつは誰かね?」
 アレスの後ろでジャグリングをする男は、顔に紙製の鬼のお面を被っていた。
「えーっと――」
 アレスは窓を見やった。窓の外で、子供たちが鬼のお面をつけてヒーローごっこに興じていた。
「赤鬼、ですかね?」
 レヴィは満足そうに、一声を発した。
「じょわ!」



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