紅林寮管理日誌その1

登場人物
キヌ:趣味はエロ本漁り




「父ちゃん! 俺、無理だよ!」
「馬鹿もん! お前の粗○ンでも調教テクニックを身に着ければ戦えるということがまだわからんのか!」
「父ちゃん……!」

 馬鹿、だな――。
 キヌは思う。
 ビールを一口。グラスで口に運んで、ゆっくり嚥下する。
 紅林寮(こうりんりょう)、夜の管理人室。
 管理人のキヌは今、ラフな格好でエロ本を読んでいた。
 ラフ、と言ってもキヌにとってのラフな格好だ。他人が見れば少々刺激が強い。
 上は七分袖のシャツ一枚。下に至ってはふんどし一丁だ。普段結っている緑の髪はあるがままに背に広がっている。
 窓際の壁に背を預け、足を伸ばした格好で、読んでいた本の表紙を確認する。
 『粗○ンの星』
 改めて思う。
 馬鹿、だな――。
 キヌはエロ本が好きだ。それも馬鹿馬鹿しい愚にもつかない内容の、誰がこんなものを考えたのかといいたくなるようなものが好きだ。
 ふと、部屋の隅に積んである本に目を向けた。
 『珍公立志伝』、というタイトルが見える。
 アレもまあ面白かったけどね――。
 見えた本の内容を思い出す。
 巨大なイチモツだけがとりえのサルと呼ばれる男が天下を取る話だ。天下を取ったあとに『刀狩り』という名目で国中の男たちを去勢して回るエピソードが面白かった。
 手元の本に目を戻す。
 今読んでいる本は生まれつきイチモツが小さい主人公が父親に調教テクニックを伝授され、数々の女を落としていくというものだ。
 なぜか執拗にア○ルセ○クスに固執した描写が見所だ。調教テクニック強化ギプスなるものが登場するあたり、低級臭くて良い。
 毎夜このようなくだらないエロ本を図書館で借りてはビールとともに流し込むのが彼女の日課だ。
 再びページをめくる。
 物語は調教テクニックを身につけた主人公が、自分の姉でテクニックを試してア○ルセ○クスに持ち込むシーンまで進んだ。
 と――。
「キャアアアアァァァァァ!!」
 絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
 突然の悲鳴に至福の時間を邪魔されたキヌは、いまいましい顔で窓を開ける。
「痴漢よおおおおぉぉぉぉ!」
 痴漢。寮という建物でこの言葉が出るということは、十中八九下着泥棒であろうと思考が繋がる。
 窓の外を、黒い人影が過ぎった。
 あれか――。
 キヌは思う。この寮の住人は警備員の人間が多い。全八室中、五室が警備員の人間である。誰が呼んだか通称『セルフセ○ム』。キヌはセ○ムが何か知らなかったが、この寮の警備体制が無駄に万全なのだろうという察しはつく。
 なので、放っておこうかとも思った。しかし、これ以上騒がれても困るし、自分の管理する寮でいつまでも五月蝿くされるのも癪に障る。
 ビール瓶を手に取った。そして投げる。
 キヌは一種の超能力を持つ人間だ。体の筋力を好きなようにコントロールできる、そのような能力だ。
 適度に強化された右腕から、鋭く放たれたビール瓶が痴漢に突き刺さる。まるで吸い込まれるようにヒット。痴漢の尻の穴に、ビール瓶が深々と突き刺さった。
「アスホール!!!?」
 痴漢の断末魔が聞こえる。
 ふと、手元のエロ本に視線を落とした。そこでは姉のア○ルにイチモツをつきたてた主人公のこんな台詞が載っていた。

「明日へホールインワンだ!」

 キヌは薄く笑うと、窓を閉めて電気を消した。
 明日も朝は早いのだ。
 痴漢を取り押さえに出てきた住人の声を背に、キヌは布団に潜るのだった。


END




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